マンション管理基礎知識
WISDOM

8.区分所有法

“法律”というと、堅苦しくなじみにくいイメージを持たれる方も多いと思いますが、 区分所有法はマンションで暮らしていく上でとても重要な法律です。

区分所有法とは?

 分譲マンションには、「建物の区分所有等に関する法律」(以下、「区分所有法」)という法律が適用されます。区分所有法は、一棟の建物を区分して、所有権の対象となる各部分ごとの所有関係を定めるとともに、そのような建物・敷地などの共同管理について定めた法律といえます。いわゆる分譲マンションについて言えば、各住戸部分は各区分所有者の専有部分ですが、躯体部分や壁のように、各区分所有者の単独所有とすることができない部分(共有部分)もあります。各住戸部分は相互に密接しているので、所有者相互の権利関係を調整する必要があります。また、一棟の建物を区分して所有する以上は、必然的に建物およびその敷地等を共同して管理する必要が伴い、そのためのルールを規定しなければなりません。
 区分所有法は、おもにこのような権利関係や管理運営を定めた法律です。では、日本においてどのような経緯で制定されたのでしょうか。

区分所有法策定までの経緯

 区分所有に関する法律は、古くは明治31年に施行された民法において、建物の一部について所有権の制定を認める例外規定(旧民法208条)という形で存在していました。
 しかし、ここではごく基本的な事項を規定したのみで、建物の一部がどのような要件を備えていれば独立した所有権の対象になるのかが明確にされていませんでした。また、分譲マンションの数も昭和30年代まではほんのわずかだったために、この法律が一般的に知られることはほとんどありませんでした。さらにこの規定は、旧民法制定当時の長屋形式の集合住宅を念頭においたものであったため、とても中高層マンションに対応できるものではありませんでした。

区分所有法の制定

そこで昭和37年、区分所有法が制定されます。規定された点は、おもに次のとおりです。

  • 区分所有権の対象の明確化について
  • 共用部分の範囲および所有関係について
  • 管理者・管理規約・集会等について

 この区分所有法が規定された当初は時代を先取りする立法でしたが、昭和40年代に入ると区分所有の対象であるマンションが爆発的に増加し、区分所有法の制定当時には想定されていなかったさまざまな問題が発生しました。 当時は専有部分と敷地を別々に登記していたため、登記簿が複雑で膨大な量になることが多くありました。また、管理規約の設定・変更を行うには区分所有者全員の書面による同意を必要としていたので、管理組合の運営に大きな障害となっていました。
 さらには、管理組合についての明確な規定がなかったため、その運営をめぐるトラブルが起きたり、悪質な区分所有者に対して適切な処置がとれないなどの問題が、たびたび生じていました。

区分所有法の大改正

 それを受けて昭和58年、区分所有法は大改正されます。改正された内容としては、大きく2つです。
 まず1つ目は、区分所有の目的である専有部分と敷地利用権が一体化され、これにより専有部分の権利変動のみが登記用紙に記載され、登記上の合理化が図られました。
 2つ目は、管理制度の充実です。具体的には以下のような点が上げられます。

  • 管理組合の当然の成立
  • 全員一致から多数決主義への転換
  • 悪質な区分所有者(占有者)の排除
  • 特別多数決による建替えの実現

昭和58年の区分所有法改正は、昭和37年に制定された区分所有法と比較して、実際に即した問題解決を中心としていました。

平成14年度の改正

過半数の賛成があれば大規模修繕も可能

共用部分の変更について、これまでは「改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないもの」については“区分所有者および議決権の各過半数の賛成”で、その他の変更については“区分所有者および議決権の各4分の3以上の賛成”が必要でした。そこで平成14年の改正では、区分所有者および議決権の各過半数の賛成で行うことのできる共用部分の変更について「形状または効用の著しい変更を伴わないもの」と定められ、外壁の補修工事などの大規模工事なども区分所有者および議決権の各過半数の賛成で行えるようになりました。

管理者(管理組合の理事長など)の権限を拡大

共用部分などについて生じた損害の賠償請求等については、従来は区分所有者個人だけが請求権を持ち、管理者(管理組合の理事長等)は請求できませんでしたが、平成14年の改正により、管理者に区分所有者を代理する権限が付与されました。例えば、マンションの玄関に車がぶつかった場合の損害賠償金の請求および受領について、管理者は区分所有者を代理し、規約または集会の決議により原告または被告として訴訟等を行えるようになりました。

規約の適正化

マンションの管理規約の中には、特定の区分所有者に対して半永久的な専用使用権を認めたり、管理費の負担割合の軽減を定めたものがあるようです。このような状況を受け、平成14年の改正では「規約は、専有部分若しくは共用部分等につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的および利用状況ならびに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。」と定められ、著しく不公平な規約は無効と判断されることもあります。

規約および集会に関する規制

規約や集会に関することを電子化できるようになりました。主な内容は、以下のとおりです。

  • 規約、議事録は電磁的記録(フロッピーディスク等)をもって作成・保管することができる。ただし、このような場合の議事録には署名押印にかわる措置を執らなければならない。
  • 集会の議決権の行使は、規約や集会において定めることにより、電磁的方法(メール等)によって行うことも可能。
  • 区分所有者全員の承諾により、集会を開催せずに書面および電磁的方法によって決議を行うことも可能。
管理組合の法人化要件の緩和

管理組合が法人となるための人数要因(区分所有者が30人以上)が撤廃されました。ただし、その他の設立要件(区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議を経ることなど)に変更はありません。

復旧決議の反対者が買収請求する場合の手続きの整備

これまでは、マンションが大規模滅失した場合の復旧決議に反対した区分所有者は、賛成者に対して、いつでも、誰に対しても買取を求めることができました。しかし、言いかえれば特定の人に請求したり、復旧工事を行っている最中に請求することができてしまうものでした。平成14年の改正では、復旧決議の賛成者全員の同意で買取人を指定できるようにするとともに、4ヶ月以上の催告期間経過後は、反対者は買取請求をすることができなくなりました。

建替え決議の要件の見直しと手続きの整備

建替え決議の要件の見直しと手続きの整備がなされました。主な内容は、以下のとおりです。

  • 建替え決議の要件
  • 招集通知の発出時期の変更
  • 通知事項の変更
  • 説明会の開催
団地内の建物の建替え承認決議

団地の敷地はほかの棟の区分所有者との共有地であるため、現行法では一団地内の1棟を建替える場合、通常の建替え決議に加え、民法上の解釈により敷地の全共有者、つまり団地管理組合の組合員全員の同意がなければ建替えすることはできませんでした。それをふまえて平成14年の改正では、通常の建替え決議と団地管理組合の議決権の各4分の3以上の賛成があれば建替えることができるようになりました。

団地内の建物の一括建替え決議

一団地内の全ての棟を一括で建替える場合、団地管理組合の区分所有者および議決権の各5分の4以上の賛成があれば、各棟において一括建替え決議を行うことができます。ただし、それには各棟の区分所有者および議決権の3分の2以上の賛成が別途必要になります。

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